MIYASHITA'S EYE

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地域包括ケアの一つのモデル・和光市 (2015年1月29日)

◆「介護保険は元気になったら卒業するもの」という市民意識

埼玉県和光市をご存じでしょうか。 東京都練馬区、板橋区と隣接する、人口8万人弱のベッドタウンです。和光市は地域包括ケアのモデル都市として、しばしば厚生労働省の資料にも登場します。また、「介護保険から卒業させる」取り組みがメディアで紹介されることも多く、介護関係の方は耳にしたことがある方も多いと思います。

メディアでは、元気になった高齢者が、みんなに拍手されながらデイサービス等を卒業していくセレモニーがよく紹介されます。また、行政主導で開催している「コミュニティケア会議」(和光市の地域ケア会議)の様子が紹介されることも多く、ややもするとこうした情報が一人歩きしている感もあります。

「こうした情報」というのは、つまり、「セレモニーで派手に介護保険からの卒業をアピールしている」、あるいは、「ケア会議にケアマネジャーやサービス事業者を呼び出して(非常に言葉は悪いですが)つるし上げている」といった、ややうがった情報です。

しかし実際には、こうしたことは、和光市の、緻密に考えられ、組み立てられてきた取り組みの中のほんの一部にしか過ぎません。卒業のセレモニーを目玉にしているわけでも、ケアマネジャーを叱りつけるために会議をやっているわけでもありません。

和光市はただひたすらに、どうすればできるだけ健康を維持して在宅で長く暮らし続けられるか、どうすれば要介護になっても悪化をできるだけ抑えることができるかを考え、そのための方策を実践してきたのです。

方策を見出すために、綿密な調査・分析を行い、高齢者を個別訪問して実態把握もしています。そうして集積した高齢者データから、どのエリアにどのようなサービスがどの程度必要かを検討し、地道にそれを整備してきたのです。

同時に、市民、サービス事業者への啓発活動にも力を入れました。 「介護保険は必要なときに必要なだけ使うもの」。それを繰り返し説き、「介護保険とは、元気になったら卒業するものなのだ」という市民意識、事業者の意識を醸成しました。

◆障害も母子も困窮者も。高齢者だけでない和光市の取り組み

そして、和光市の取り組みが成功しているのは、卒業させて終わり、ではないからです。 卒業後の受け皿として、市町村事業である地域支援事業で、体操、口腔ケア、栄養、認知機能訓練など、さまざまな教室を用意し、さらに、自主運営のサークル活動が活発に行われるよう支援しました。

高齢者の状態に応じた、さまざまな受け皿があり、その受け皿で自立に向けた、あるいは自立を維持する取り組みを続けられることから、和光市の高齢者は元気になり、元気を維持できるのです。

そして和光市は今、14年間の介護保険関係の取り組みの成果を応用し、障害者分野、母子分野、生活困窮者分野でも、新たな支援の仕組みをつくろうとしています。これらを一体的に提供できることこそが、「地域包括ケア」だと和光市は考えているからです。

こうした和光市の取り組みは、どの自治体でもできる、というわけにはいかないかもしれません。 そもそも地域包括ケアとは、その地域の課題を解決するために地域ごとのやり方で作り上げていくべきものです。しかし、一つのモデルとして、どの自治体にも何か参考になることはあるはずです。

何より、行政が本気になって地域づくりに取り組めばここまでできるのだ、ということを多くの方に知っていただきたい――。 そう考えて、このほど和光市の取り組みを紹介する本を書きました。

「埼玉・和光市の高齢者が介護保険を“卒業”できる理由」

ぜひ手にとって、ご一読いただければと思います。

(2015年1月29日)