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MIYASHITA'S EYE

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認知症を持つ方に医療ができること 
(2015年4月12日)

◆治療=治す効果はない認知症の治療薬

認知症の方に対して、医療ができることは少ないとよく言われます。 医療側はそれに対して、さまざまな反論をしていますが、認知症治療薬は、実は「治療薬=治す薬」ではなく、人によっては「認知症の症状を軽減する」「進行を一時的に遅らせる効果」がある、という程度の薬です。そう考えると、医療のできることは、

本来、とても限定的ではないかと感じていました。認知症専門医ではない、一般医による認知症治療薬の処方は、「認知症と診断したあと、何もしないわけにはいかないから」「患者がほしがるから」という理由で処方されているのでは、と感じることもあります。

私は介護ライターをしながら、臨床心理士としても、介護老人福祉施設と神経内科クリニックで週1日ずつ勤務しています。ライターで取材したことが、心理士としての勤務の際、クライアントや周囲の状況を理解する助けとなり、心理士として接したクライアントや介護現場で働く方たちの思いが、ライターとしての仕事に還元される。――どちらの仕事も私にとっては学びの多い、大切な仕事です。

先日、臨床心理士としてある認知症講座に参加しました。そこで、医療ができること、医療と協働する心理ができることについて学ぶことができました。

講座の前半は、高齢者専門病院で活躍されている臨床心理士の方による「神経心理検査と認知症ケアへの活かし方」の講座。神経心理学検査とは、「長谷川式認知症スケール」「MMSE」などの認知機能低下のレベルを調べる検査のことです。この2つの検査は、10分程度で認知症かどうかのスクリーニングができる検査として広く使われています。簡便な検査ではありますが、臨床心理士としては、検査を受ける態度や検査中のやり取りなども含めて、どのような認知機能の低下があるかを読み取ることが大切。この講座で聞いた、どこに注目して何を読み取るべきかという情報量満載のお話は、駆け出しの心理士の私にはとても勉強になりました。

◆患者が認知症である自分を受容できるよう支援

精神科医でありながら、「認知症治療薬はごく一部の患者にしか効かない」と断言するこの医師からは、もの忘れの進行に不安を感じている患者さんに臨床心理士が認知リハビリテーションを行うことにより、一定期間、進行を抑制できた、という話がありました。ただし、話のポイントはその成果ではなく、認知リハビリテーションをしても認知機能が低下していく事実を患者さんが受容し、休職を続けてきた職場に、自分自身で退職を申し出ることができたこと。つまりこの患者さんは、治ることなく徐々に悪くなっていく認知症という病を得た自分を受け入れ、認知症と共に生きていく覚悟をしたということです。

治ることのない病気になったという事実を受け入れるのは、誰にとってもとても難しいことです。この方は、臨床心理士が何年リハビリテーションを行い、精神科医と共に見守り、支援したことによって、数年かけて病を受容することができたと言えるでしょう。

講座のあとの懇親会では、認知症専門病院の心理士さんとお話ししました。現場での実践の中でさまざまな知見を得てこられている看護職や介護職に、心理士が横から言えることはどれだけあるでしょうか、と尋ねてみました。私は介護施設で心理士をしていて、常にそれを感じているからです。すると、その心理士さんに「介護の方が実践で感じ取ってこられたことを、心理検査の結果などから裏付けて差し上げることにも意味があるのでは」といわれ、なるほどと思いました。

認知症を持つ方を支えていくのは家族であり介護職であることは間違いありません。しかし、薬に頼らない医療、そんな医療と協働する心理であればできることはいろいろあるのだと、しみじみ思いました。ただし、「できること」をできるようになるためには、臨床心理士としてもっともっと勉強が必要。そうしみじみ思った日でした…。

(2015年4月12日)