介護業界のいま

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小規模多機能型居宅介護の可能性
(2013年5月20日)

◆小規模多機能=
訪問介護+デイ+ショートステイではない


5月11日、神奈川県川崎市で小規模多機能型居宅介護(以下、小規模多機能)を運営する柴田範子さんの講演(主催・ホスピタリティ☆プラネット)を聴いてきました。

小規模多機能は、「『訪問』『通い』『泊まり』を自由に組み合わせて月極料金で利用できる介護サービス」とアナウンスされてスタートしました。しかし、「小規模多機能=訪問介護+デイサービス+ショートステイ」と考えるのは間違っている、と柴田さんは言います。

要介護度が中・重度で、施設適応とされてもおかしくない利用者。そういう方が在宅で暮らし続けられるよう知恵を絞り、24時間365日の在宅生活を支援していくのが小規模多機能、と柴田さん。彼女が例として挙げたのは、主介護者が娘から虐待傾向のある息子に変わった利用者です。自身の希望で主介護者になったこの息子は、かつて母を階段から突き落としたことがありました。行政は虐待の再燃を恐れ、本人の安全を確保するために精神科病院への入院を提案。これに対して柴田さんは、本人自身には精神科病院に入院する必要性はまったくないのだから、虐待を防いで在宅で暮らせるよう方策を考えるべきだ、と待ったをかけます。

そして、スタッフと相談して決めた支援は、毎日、「泊まり」を利用してもらい、日中、家で過ごしてもらうプラン。家で過ごす日中には、スタッフが数回訪問して見守るという生活を続け、虐待を防いだそうです。この支援のすばらしい点は、ただ虐待を防げればいいということではなく、母の介護をしたいという息子の気持ちも大切にしたこと。介護をしてもらいつつ、しかしそれが負担になりすぎないようにというバランスを考えた結果が、このプランとなったのですね。

◆サービスで支援を考えるのではなく
どう支援するかでサービスを組み立てる


こうした例を通して柴田さんが言いたかったのは、前述の3つのサービスを組み合わせてどう支援するかを考えるのではなく、一人ひとり事情も希望も異なる利用者の在宅での生活を支えるためには何をすればいいか、という逆の視点からの発想が必要だということだったのだと思います。

全国小規模多機能型居宅介護連絡協議会理事も務める柴田さんは、全国の小規模多機能を見て回ったそうです。その際、本人の希望に応え、新幹線を利用して墓参りに行ったケースや、泊まりを嫌がる利用者を支援するため職員が利用者の家に泊まり込んで支援したケースなども耳にしたとのこと。こうした事業所のように、どうすれば在宅生活を支えられるかという視点から発想していけば、小規模多機能は相当懐の深い支援ができると感じました。厚生労働省が推進している地域包括ケアは、定期巡回・随時対応型訪問介護看護より、このサービスが普及する方が実現できるのでは、と思ったりします。

しかし残念なことに現状では、小規模多機能を前述の3つのサービスの組合せだと考え、さらには訪問の回数や通いの回数を制限する事業所が少なくありません。柴田さんのように、柔軟で懐の深い支援をするには、まず3つのサービスの組合せで対応するという発想を、事業者自身が捨て去らなくてはなりません。そして、利用者の生活は自分たちが支えているという強い自負心を持つ職員を育てていけば、このサービスならではの真価を大いに発揮できると思います。

まだまだ小規模多機能が秘めている可能性は大きい。柴田さんのお話からはそれを強く感じました。

▼「ケアマネジメント・オンライン」に宮下が執筆した記事も併せてご覧ください。
<セミナールポ1>小規模多機能=デイ+ホームヘルプ+ショートは誤り!

<セミナールポ2>居宅と小規模多機能はライバルじゃない!